三湖ものがたり

第1幕・十和田湖と八郎太郎
 

鹿角の里に住んでいた八郎太郎は、仲間二人と一緒に山仕事に出かけました。食事の準備で谷川に水をくみに行った八郎太郎は、三匹のイワナをつかまえ、串に刺して焼きながら二人の仲間が帰るのを待っていました。 ところが、あまりのおいしそうな香りに、三匹残らず食べてしまったのです。
 山のおきてでは、山で穫れたものは仲よく分けることになっていたのですが、八郎太郎はこのおきてを破ってしまったのです。するとどうでしょう。胸が焼けるように熱くなり、のどが渇きます。谷川に顔をつけ、がぶがぶと水を飲み続けた八郎太郎は、三十余丈(約90m)の龍に変身してしまいました。 この八郎龍がせき止めて作ったのが十和田湖です。



十和田湖


第2幕・八郎太郎と南祖坊
 

八郎太郎は十和田湖の主として、長い間静かに暮らしていました。 そこにあるとき,南祖坊という修験者が十和田湖へやってきました。南祖坊はここを永住の地とすることにし, 読経を始めました。ところが,十和田湖には八郎太郎という主がいました。突然,南祖坊の目の前で, 静まり返っていた湖から,竜巻とともに,八つの頭, 十六の角を振り立てた蛇体が天を衝くように突っ立ちました。南祖坊と八郎太郎の間でいさかいが始まりました。神のお告げでここが自分の住みかと言う南祖坊と、ずっとここで暮らしてきたという八郎太郎は,互いに譲らず,ついに激しい戦いになりました。八郎太郎と南祖坊は,雲に乗り, 互いの術を次々に用いて七日七晩戦い続けました。八郎太郎はこの戦いに敗れ大湯川沿いに敗走しました。
秋田では「八郎太郎」と呼んでいますが、青森では「八之太郎」と呼んでいます。「八之太郎と南祖坊」は2000年の青森ネブタの題材に取り上げられました。

南祖坊は十和田湖畔に青龍権現を祀り、みずから別当になりました。この青龍権現が魚族を忌み嫌うため十和田湖には魚がいないという伝説が作られました。この伝説に挑み、ヒメマスの養殖に成功したのが和井内貞行です。



2000年NTTグループネブタ「八之太郎と南祖坊」


第3幕・田沢湖と辰子姫
 

田沢湖町に、まれにみる美しい娘辰子がいました。辰子は、その美しさと若さを永久に保ちたいものと、密かに大蔵観音に百日百夜の願をかけていました。満願の夜に、「北に湧く泉の水を飲めば願いがかなうであろう」とお告げがあり、辰子はひとり家を出て、深い森の道を辿って行くと、苔蒸す岩の間に清い泉を見つけました。喜び、手に掬って一口飲むと、何故かますます喉が乾き、ついに腹這いになり、泉も枯れるほど飲み続けました。ときが過ぎ、気が付くと辰子は、大きな龍になってしまっていました。龍になった辰子は、田沢湖の主となって湖底深く沈んで身をひそめました。
 一方、辰子の母は娘の帰りを案じ、田沢湖のほとりまで探しに来て、娘が龍になったことを知って悲しみ、松明にした木の尻(薪)を投げ捨てると、それが魚になって泳いでいったということです。後に国鱒と呼ばれ、田沢湖にしか生息しなかった木の尻鱒という魚が生まれた起源とされています。


 


田沢湖と辰子姫


第4幕・八郎潟から田沢湖へ
 

十和田湖を追われて、新しい住みかを探して歩き続けた八郎太郎は、男鹿の島が見えるところまでやってきて、大地震と大洪水をおこし、大きな湖をつくりました。これが八郎潟です。 
時がたち、八郎潟に落ち着いた八郎太郎は田沢湖に辰子という美しい龍が住んでいることを知りました。八郎太郎は辰子に結婚を申し込もうとしましたが、十和田湖で争った南祖坊も辰子に結婚を申し込んでいることを知りました。八郎太郎と南祖坊は再び戦うことになりました。今度は負けるわけに行かない八郎太郎は持ち前の力を発揮して、ついに勝利し、辰子を得ることが出来ました。
冬になると八郎太郎は田沢湖で辰子と二人仲よく暮らすようになりました。そのため田沢湖は二人の仲のようにますます深くなり、冬でも凍ることがありません。反対に、八郎潟はしだいに浅くなり、八郎太郎が留守にしている冬は、一面に凍りつくようになったといわれています。 

八郎太郎と結婚した龍に化身した辰子


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