通学列車で

1.
 

♪白い野バラを捧げる僕に、君の瞳が明るく笑う♪・・・・・・
ここまで歌って気読(きよみ)は、本当にこんなことがあるのだろうかと思った。
君の瞳が明るく笑う・・・・何と素敵な事なんだろう。
そして気読の頭にはその僕が気読自身で、君というのがいつも会う彼女の
ように思えて来た。

しかしそんな夢は直ぐに壊れてしまった。
だめだ、そんなこと、なるはずが無い。
「逆意(さかい)気読(きよみ)は高校1年、毎日田舎?の駅(K駅)から、列車で都会?(Y市)の高校へ通っている。
そんな気読が彼女の事を意識し始めたのは、1年の2学期も終わろうとしていた頃だった。

帰りの列車で、気読はいつもの中頃では無く、前から2両目に友達と一緒に乗った。途中のY駅で5分の停車時間を半分位過ぎた時、二人連れの女学生が乗ってきて、少し先の方に座った。
一人の顔が気読を強く引き付けた。
素敵な女性だ、学校はどこなんだろう?
気読が乗車するKY駅で会ったことがあるような気がする。

彼女はこの駅で乗り降りするんだろうか?
気読は一つ前のKY駅で降りて、高校に通っている。
直ぐこのように考えるのは、彼女がもう彼女が自分と連れ添って歩いている
姿を思い描いているからであった。

小さい、かわいい顔をしている。
あどけない丸顔、1年生だと良いんだけれど。
どこから通っているんだろう?
その日から、気読の頭には、いつも彼女のことが浮かんでくるのであった。
あんな女性と友達になれたら・・・・・と。

通学列車(蒸気機関車)

 

2
 

しばらく経ったある日、朝のホームに立った気読は、そこに彼女の姿を見つけた。第一の関門突破、彼女もこのK駅から乗るのだ。
そこは後ろから3両目と4両目の間だった。
気読は、いつもはそれより前の車両に乗っていた。
それも、列車が来てから駆け込み乗車だったので、2学期の最後まで、彼女に
会うことが出来なかったのだ。
気読は、早起きは3文の得とは、このことなんだと思った。

列車が来て、気読はいつものようには早く乗らないで、彼女の姿を見失わない
ように、後ろから付いて行った。
うまく彼女の隣に立つことが出来た。
他人が間に入りそうになる。
そんかことになっては、上手くない。
気読は人の動きが止まるまで、彼女の側を離れないように、懸命に努力した。

彼女はいつも、もう一人の女性と一緒だった。
しかし、この二人は現代の女性に似合わなく、殆ど話すことは無かった。
気読は彼女の声を聞けないことを残念に思った。
次のY駅で、また混んで来て強く押された。
彼女は気読の左側に立っている。
強く押され、彼女の温もりが伝わってくるように思われた。

チラッチラッと彼女の方を向いては、前を見る。
夏だったらなぁ。
第二の関門突破、彼女は気読と同じKY駅で降りたのだ。
気読の胸は弾んだ。

就学旅行

3.
 

彼女を知ってから、毎朝学校に行くのが楽しくなった。
彼女はいつも同じ車両に乗った。
気読も彼女の側に立つことを常とした。
ある日、少し遅れてしまい、列車がすでに来ていた。
しまった、彼女の姿は無かった。
もう乗ったんだな、そう思って、後ろから4両目の後ろの入り口から
入って行くと、すぐそこに彼女が立っていた。

「僕を待っていたみたい」気読はそう、彼女の気を読んだ。
しかし、すぐに思い直した。逆意気読・・・自分の名前が気になった。
意の逆の気を読む・・・・すると、自分が彼女は待っていたと思ったのに、実際は偶然だったのではなかったのか、逆意という姓なのに、両親はどうして
気読なんて名前を付けたのだろう、気読はそんな無責任なことを考えながら
彼女の方を見つめた。
この頃では、彼女も気読がいつも側にいることを気づいたようだった。
でも、それは彼女だけが知っている。



白バラ

  女学生


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