高校一年三学期

4.

三月期、高校一年の三月期、気読は自分のカバンと彼女のカバンを見比べて、彼女は二年生なんではないかと思った。
彼女のかばんは、1年生のような真新しさは無く、2年生の物のように見えた。
1年生とすれば、中学校の同窓生には居なかったような気がする。
K駅から乗車する高校生には複数の中学校出身者がいるので、同学年だと
しても同窓生とは限らない。

しかし、そんな気読の期待も彼女が開いていた教科書によって、潰されてしまった。世界史の教科書だった。
彼女は二年生なのだ。こんなに可憐な顔をしているのに。
でも、かまうもんか、年上でも。
気読は自分の心が変わらないことを確かめた。

気読が中学校の同級会で母校に行った時、気読よりも1年上のクラス
の同級会に彼女が出席しているのを目撃した。
これで、彼女が高校二年生であることが確実になった。
でも、同じ中学校出身だった。
同級会に出席した彼女は、通学の時の制服のコートでは無く、個性のある鮮やかな私服のコートを着用していた。
気読は、この同級会で、彼女には近寄りがたいような、そんな感じがした。
気読は、同じクラスの女性は、全く眼中に無かった。

 

5.
 

気読が彼女を知ってから大分経ったある日、帰りの列車で彼女に会った。
彼女は階段を上るとき、早くも定期を手に持ってブラブラさせていた。
気読は彼女の後ろを付いて行った。
彼女はふと、定期を胸の前に持って行って、眺め出した。
「チャンス」、気読はすかさず肩越しに覗き込んだ。

定期の名前は「吉沢由梨子」。吉沢由梨子さん、由梨ちゃん、そうか彼女の
名前は「由梨子」さんか。
気読はこれで彼女に一歩近づいたようで嬉しく思った。
彼女は定期を僕に見せようとしたのだろうか?
そう思うと、気読はまた自分の名前のことが、頭に浮かんでくるのであった。

           白百合

 

6
 

その日、気読は所要があって、いつものKY駅の一駅先のY駅から乗車した。
彼女がいつも乗る車両へ入って行った。
彼女がいるか見渡したら、彼女の姿があった。
いた!、 しかも今日は一人だけだ。
すばらしい、隣に座ろう!。
しかし、席が沢山空いているのに、そんなこと出来ない。
やるんだ、彼女も期待しているかも知れない。
しかし・・・・勇気が無かった。
結局、彼女を見渡せる席に座った。

父さん、母さん、恨むじゃ無いが、どうしてこう勇気が無いんだろう。
こんなチャンスが訪れることは、めったに無いのに。
彼女はまもなく眠り始めた。
気読はじっと彼女の寝顔を見つめた。
美しい・・・・すごい魅力的な顔だ。

下車するK駅の前の駅KK駅を通過しても、彼女は目を覚まさない。
このまま起きなかったら・・・・、その時は・・・。
すばらしい速さで、ある考えが気読の頭に浮かんだ。
どうか、このまま、起きないでいてほしい。
K駅に着いたら、起こしてあげる。
すると彼女は「どうもありがとう、いつも会うのね。」
そこで、気読は言うんだ、
「吉沢由梨子」さんでしょう、・・・・」
それから・・・・、考えるだけで、気読の胸は高鳴った。

もうすぐ着く、まだ起きない、実現しそうだ。
気読の胸の動悸は激しくなり、足まで伝わるくらいに高まった。
まだ、もう少し、最高の高鳴りを胸に覚えたとき、列車は静かにホームに
滑り込んだ。
その時だった。今まで眠っていたとばかり思っていた彼女が、むっくりと起き
立ち上がったのだ。
気読の期待は見事に打ち砕かれてしまった。

 

7
 

ある朝、列車がK駅に着いたとき、近くの男子高校生が、彼女にプリントを
渡し、誰かに渡してくれるように頼んでいた。
気読は、目の前が真っ暗になった。
数日間、彼のことを考えた。
しかし、気読はくじけなかった。
彼はいつもこの列車に乗車しているのに、彼女と話したのを見たのは一度だけで、その前にも後にも見ていない。
そんな訳で、彼と彼女はお付き合いしている訳では無いと思い、気持ちを持ち直した。大丈夫だ。

高原のお嬢さん


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