高校二年生

8
 

・・・吉沢由梨子、女子高で僕より1年上、中学は同じ、
可憐なかわいい娘・・・、
気読はノートにこんなことを書きながら、また彼女の事を考えていた。
2年生になった今でも、気読の頭からは彼女の面影が消えなかった。
気読はいつも彼女のことを考えていた。
彼女に初めて会ってから、気読の心には、由梨子以外何事も入れる
余地が無かった。
気読は今日もまた、由梨子の顔を見ることを楽しみにして、出かけて
行くのであった。

通学列車の車窓から見た蔵王山

 

9
 

広大な荒野、その雑草だけの中に一輪清く咲く白い野バラ、由梨子の存在は
気読にはそんなふうに思えた。
列車の中で由梨子の姿を見る時は他の何者も目に入らなかった。
由梨子の容姿はどのように見ても、年上には見えなかった。
同年、もしくは一つ年下のようにさえ見えた。

気読は以前から年上の頼れる女性を望んでいたように思えた。
しかし、今この年上でも年下のように可憐な彼女を見ていると、どうしても、
泣いて甘えられる女性では無い様に思えた。
しかし、今はそんなことは問題では無かった。
何の意思表示もしていないのに、それでいて何とかお話したいと思っている、
気読はそんな自分の利だけ考えているのをおかしく思った。

 

10
 

気読はいつも列車内で彼女に「由梨子さん・・・・・」と話かけることを願って
いた。

  そんなある日、気読はとうとう・・・・
  いつものように帰りの列車で、気読はついに由梨子の隣に座ったのだ。
  そして次のY駅で、前の二人が下車し、ボックス内が二人だけになった。  そこで、気読は勇気を奮い起こして、彼女に声をかけた。

  「吉沢由梨子さんですね。」
  彼女は気読の方を見て笑み「どうして分かったの?」
  次の瞬間、気読は後の言葉が出て来なくて、頬を真赤に紅潮させた。
  また、いつもの癖が出てしまった。

  気読は自分の赤面恐怖症を悲しく思った。
  由梨子はそんな気読を見てこう言った。
  「あら、純真なのね。」  
  その時、「気読!」「気読!」という声、
  車窓から母の顔が覗いていた。

「気読、学校遅れるよ。」
ハッと目が覚めてしまった。
残念な気がした。夢だったのだ。
もう少しのところまで、行ったのに。
気読は布団の上に座って、今の夢を思い起こし、正夢になるように・・・・
と祈った。
でもまた思うのは、逆意気読という自分の名前だった。

 

11
 

初めのうちのほのかな喜びは、時が経つにつれて苦しみに変わって行くのを
気読は感じ始めていた。
いつの時でも、気読は彼女の事を思い続け、あの朗らかな性格が、段々と
暗くなってった。
由梨子・・・百合・・・この名前から豪華な百合の花を連想するのは、難しかった。彼女の名前を知ったのは、後だった。
彼女のイメージは正に野に咲く可憐な白い野バラだった。

この広い荒野にこの可憐な野バラが一輪だけということが、あろうか。
探せばいくらでもあるはずだ。雑草の中にもきっとあるはずだ・・・・。
しかし、そんなことを考えても、気読の気休めにはならなかった。
気読は他のことを考えれば考えるほど、彼女のことを忘れなくなることを
感じていた。



                 白い野バラ

 

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気読の嫌いな授業だった。
彼は先生の顔を見つめていてもつまらないので、窓の外の空を眺めていた。
澄み切った青い空、由梨子さんの心もあの空のようであれば、良いな、
と思いながら。

ふと気読の手は、胸の万年筆に伸びて、ノートに、何気なく由梨子の似顔絵を
書き始めた。
気に入らない・・・。気読は何度も書き直した。そこに彼女の姿を求めて。
気読は夢中で書いていたので、隣の級友が覗いているのに気が付かなかった。
授業終わりのサイレンが鳴った。
「何書いてた?   それ、お前の彼女か?」
気読はあわててノートを閉じた。
級友はかまわず続けた。
「そうなんだろう!」
気読は「そうだ、俺の彼女だ」と言いたかった。

しかし、気読は「ち、違う」「そんなことあるもんか」
とむきになって言い返した。
顔はこわばり、握ったこぶしが震えていた。
級友はそれ以上、追及しなかった。

しかし、気読は冷静になってから、自分は何故あんなにむきになったんだろう、と思わずにはいられなかった。
彼女の事を本当に思っているのだ・・・そうだ、僕は彼女無しでは生きて行けない。気読の胸の中には彼女の姿が浮かんでいた。
・・・・・絶対に彼女の心の中に入って行かなくては・・・
気読は力を込めて立ち上がった。
そして、体育館へと跳んで行った。

                 仲間たち 

 


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