自宅確認

13

気読には中学時代からの親友と呼べる友達がいた。
彼の名は信太郎・・・・今まで気読は・・・
「友情は苦しみを半分に、喜びを二倍にする」。
「困った時の友が真の友」。
等すべて当てはまり、信太郎には何でも打ち明けることが出来ると思っていた。
実際にこれまでは、二人とも何のためらいも無く、自分の胸の内を打ち明けることが出来た。

しかし、中学の同級生でも、気読は彼の家を知らなかった。
今ではたまに列車で会うだけだった。
ある日、いつもの列車で、気読は彼と一緒になった。
信太郎は気読が段々と元気が無くなって行くのを気づいていた。
実際、かって気読の性格は明るくいつも回りの人を楽しませていた。
信太郎は、「気読は何か悩みがあるのかも知れない、それを言い出せないで
いるのかも」
と思い、自分は友として聞いてあげなくてはならないと決心した。

「気読、近頃元気がないぞ、何かあったのか?」
気読はそんな心配をしてくれる友を嬉しく思った。
しかし、気読は口から反対の事を言っていた。
「いや、何も無いよ」
気読は、友があんなに心配してくれているのに、、自分の心をを
打ち明けられないことを悲しく思った。

誰も僕の気持ちは分かってくれない・・・僕の気持ちを・・・・。
君だけ、君だけに知ってもらいたいんだ、・・・由梨子さん・・・・・。
           

                  君たちがいて僕がいた        

 

14
 

帰りのK駅で、前を歩いて行く由梨子の姿を見たとき、気読は「後をつけよう」
と思った。
由梨子はいつものように友達と二人連れで、黙って歩いていた。
気読は後ろを振り返り、誰も見ていないことを確認して、二人の後をつけ始めた。
探偵きどりで、尾行を続けている気読は何か言い知れない気持ちに襲われた・・・僕はなんてことをしているんだろう・・・。

十分くらいで、最初の十字路につくと、二人は右と左に分かれた。
気読は勿論、右に行った由梨子の後をつけて行った。
少し歩くと、彼女はまた右に曲がった。
気読は少し間隔をあけて、右に曲がったが、由梨子の姿はもう無かった。
彼女の家はこの辺なんだな、今日はここまでにしよう。
大体分かっただけでも大きな収穫だ。

 

15
 

夕方、気読はK市の街を歩いていた。
ある店の前まで来た時、前方から由梨子が歩いて来た。
気読の胸は高鳴った。
今が絶対のチャンスだ。彼女に話しかけるのだ。
どのように切り出そうか。
気読の心は、グルグルと回り始めた。

早く早く決めるんだ。
しかし、そうしている間に、彼女は目の前まで来てしまった。
気読は、由梨子の顔を、瞳を、じっと見つめた。
彼女の目と一瞬合ったが、直ぐに二人は交差してしまった。
気読は追いかけて、声をかけようと思い、ユーターンして彼女の後をつけ始めた。
回りの物は何も目に入らなかった。

しかし、気読は彼女に近づくことは出来なかった。
そうしているうちに、前回見失った地点に来てしまった。
気読は彼女の家を確かめたに過ぎなかった。

 


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