初    恋

16
 

気読は、由梨子と出会うまでは男の中でも勇気がある方で、顔も悪くは無いと
思っていた。
しかし、今までのことや今日列車であったことを考えると、自分は何てだらしが
無いんだろうと思わない訳にはいかなかった。
自分の責任だ、親に当たってみたところで、始まらない。

今朝の列車内はいつもより、非常に混んでいた。
ようやく車両の中に入れたが、強い圧迫荷重を感じた。
しかし、彼女の姿は逃がさなかった。
こんなふうに混んでくると、体が傾いたりカバンを持った手が自由にならなくて
苦しいものだ。
今日はそんな状態だった。

気読はようやく網棚にカバンを上げることが出来た。
由梨子はいつものように友達と一緒だった。
こんな時位、背が小さいとみじめなことは無い。
二人とも苦しそうだ、カバンを持っているので、さらに辛いようだった。
「カバン落ちそう!!。」「あたしも!!」
なんて、話している。
「カバン、網棚に上げましょうか?」
こう言いたい、気読の胸は高鳴るのであった。

しかし、言葉に出すことは出来なかった。
ぐずぐず考えているうちに、列車はKY駅に着いてしまった。

百合園

  ああ青春の胸の血は

17
 

気読は机の上の日記帳を開いて、そのことを思い出していた。
「僕は何かやろうとすると、すぐに興奮してだめになってしまう。」
気読はそんなことを日記にぶちまけて、少しは気分を紛らそうとした。
彼の日記を見ると、あの日以来、彼女のことを書いていないページを見つける
ことは難しい。

   初恋は結ばれないと言う。本当だろうか?
       僕はただ、彼女・・・由梨子さんと、お友達になって、お話したいんだ。
   由梨子さんと出会うまでは、こんなに沢山いる女性の中で、お友達に
   なりたいという女性はいなかった。
   これからどうなるか、分からない。
   でもこの恋を逃がしたら、一生女性とお付き合いすることが出来ないかも
   知れない。
   僕はどうしても由梨子さんとお友達になりたい。
   どうしても・・・・どうしても・・・・。


近頃、気読は、由梨子の側に行くことが、何だか恥ずかしいと思うように
なって来た。
彼女に、覚えられたようで。嫌な男と思われているようで。

       彼女は、僕に気づいているんだろうか?
       僕は、男なのに、彼女の言葉を待っている。
   彼女は、どう思っているのか?  分からない。
   
   僕はまだ、意思表示していない。はねつけられるのが怖くて。
   でも今に見ていろ、僕だって・・・きっと・・・。

                                         初恋

 


トップページへ戻る/ 次へ/