触れ合い

18
 

もうわずかな日、学校に行くだけで夏休みを迎えようとしていた。
毎日快晴だったが、依然として気読の心はすぐれなかった。
このままでは、暗い夏休みになってしまう。
何とか夏休み前に手を打たなくちぁ。

その日の列車は混んでいた。
,熱気がムンムンして息苦しかった。
列車が動き出すと、窓側は少し涼しくなった。
由梨子は外側に出られなくて、暑そうにしていた。

   かわいそうに、こういう時、小さいとみじめだなぁ・・・でも僕には
   どうしてやることも出来ない・・・もっと勇気があったらなぁ。


気読はいつもと同じ事を考えていた。
2−3人の高校生が、必要も無いのに、ギューギューと押していた。
皆迷惑そうにしているが、何も言わない。
気読もいつも黙っているが、その時、彼の目に苦しそうにしている由梨子の
姿が入った来た。
気読は思わず叫んでいた。

「むやみに押すな!!」
すぐに、あぁと思った。その高校生達が気読をにらみつけたのだ。
やっぱり黙っていれば良かった。世間では小暴力反対とか言っているが、
現実には皆、見て見ぬふりをしているでは無いか。
しかし、気読の目に彼女の姿が入った時、そんな思いは消えていた。

  僕は正しい事をしたんだ

Y駅に着いた。
先ほどの3人が、「降りろ」と言い寄って来た。
気読は黙って付いて行った。
3人が気読を取り囲んだ時・・・・駅員が駆けつけて来た。
・・・そして、3人は連れて行かれた。

   やっぱり正しい人もいるんだ

しかし、駅員に通報したのが、由梨子だったとは、気読は気が付かなかった。
                     

 

19
 

あの日以来、由梨子の気読を見る目が変わって来たことに、気読は気が
付かなかった。
気読はあの日のことを何とも思っていなかった。
帰りの列車で、Y駅から乗車したおばあさんが、席が空いていなくて立っていた。
   譲ろうか?、幸い僕は一人だから。

「どうぞお座りください。」     
気読は立ち上がった。
そしてハッとした。近くに由梨子が立っていたのだ。
知らなかった、彼女の目は優しく笑っているように思えた。
気読は今の出来事を彼女に見られた事が、恥ずかしくて彼女の方を見ることが出来なかった。

     馬鹿だなあ、僕は。彼女は何とも思っていないんだ、
   
気読は、

   この頃は彼女も僕の顔を覚えたかも知れない。
   でも、僕の事をどう思っているか、分からない。
   良く思っているか、それとも、悪く・・嫌な奴だと・・・
   また、別に気にしていないのかも知れない・・・

   結果を考えないなら、声をかけることは出来る、
   しかし、はねつけられたらおしまいだ。
    待とう、もう少し、夏休みまではまだしばらくある。

気読は今日も彼女に声をかけることが出来なかった。
明日があるさ、明日がある。

                                       学園広場

 


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