夏休み

20
 

とうとう夏休みを迎えてしまった。
気読にはどうすることも出来なかった。
やることをやらない内に、時だけがどんどん過ぎて行った。

  1ケ月も彼女の姿を見られないとは、残念でならない。
  休み前にどうにかしておけば良かったのに。
  休み中に彼女の心がどう動くか分からない。

気読の心はますます暗くなった。

  昨日は何ごとも無かった。
  列車に乗って学校に行こうか?
  そうすれば、会えるかもしれない。


しかし、気読はあえて、それをやらなかった。
仕方ないんだ、なるようになるんだ。

 

21
 

休みに入って二日目だった。その日もまた天気が良かった。
気読はふと川原に行きたくなった。
小さい頃の思い出が、いっぱいの場所だ。
チャンバラ、舟浮かべ、、水泳、芋煮会・・・川原での思い出は沢山ある。

気読は一人で三脚とカメラを持って出かけた。
昔の姿とは大分変わっていたが、川原は懐かしかった。
春はここを通って、中学校に行く時、ネコヤナギを摘んだ。
川原には、新しい釣り橋がかかっていた。
水の流れは以前よりは大幅に少なくなっていた。
山の中の小川のようにチョロチョロと澄んだ水が流れていた。

気読は、そこの堤防で、野バラを摘んだことを思い出した。
気読は自然に堤防の方に足を運んだ。
一輪の白い野バラが気読を引き付けた。
それを摘んで、前を見ると、川原の中ほどをこちらに向かって歩いてくる
懐かしい姿を見た。
気読は唖然としてその人を凝視した。



                     花と蝶

 

22
 

じっと見つめていた。彼女だ。
気読は彼女に向かって歩き出した。
初めの言葉、これが大事だ。
しかし、浮かんでこなかった。
気読は、彼女の前で立ち止まった。

どんな反応を示すだろうか?
気読は手に持った白い野バラを彼女に差し出した。
彼女は一瞬戸惑ったようだったが、その目は笑っていた。
気読は今までの苦しみが全て終わったように思えた。

「美しい十代」の歌詞が思い出された。
  
   白い野バラを捧げる僕に
   君の瞳が明るくむ笑う

確かに笑った。
「由梨子さん?」
彼女はうなづいて、野バラを受け取り、
「いつも、列車で会うのね。」
「僕、逆意気読」
「知ってるわ、K高校の2年生ね」

「えっ」、気読は絶句した。彼女は知っていた。自分のことを。
あぁ、今まであんなに苦しんだのに。
結果は簡単だった。何だか拍子が抜けたような気持ちだった。
気読がはちきれんばかりの喜びを感じたのは、少し時間が経ってからだった。

「僕、前から貴女とお話したいと思っていたんだ、嫌お友達になりたいと。」
「僕、一つ下だけと。」
「いいわ。」
彼女は今度は顔中で微笑んだ。
気読は、川原中が生き生きと活気が満ち溢れているように感じた。
川の水も二人を照らして輝いていた。

その時、初めて話した時の、二人で笑っている川原での写真を気読は
一番大切にしている。
アルバムには、「なれそめ」と。
                                     完

君の瞳が明るく笑う

美しい十代

   


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